APAA国際会議の歩き方

弁理士になったんだから国際デビューしたいという思いは、誰もが一度は持つと思います。初めてAPAAの国際会議に参加する皆様の参考になればと思い書き留めました。出張でも観光でも、旅は人生の幅を広げるものです。弁理士として活動するのであれば、国内でくすぶっていてはもったいなく、国際会議への参加をお勧めして止みません。なお、このページはAPAA本部や日本部会とは関係なく、個人の経験に基づいて感想を述べているものです。

1.APAAって
 Asian Patent Attorney Associateion、日本語でアジア弁理士協会といいます。台湾が加盟しており、中国が加盟していません。正確な情報は、APAAのwebサイトを見てください。
 略称好きな日本人はAPAAを「アッパ」と称しますが、正式にはエイピーエイエイと略さない称呼のようです。例えばハングルで「アパ」は痛いという意味で、略称しない韓国人は多い気がします。

2.なぜ、APAAに参加する
 参加の目的は人によって色々です。下記はよく聞く理由です。
 ・国際派弁理士になる
 ・事務所から派遣された(忙しいのに、行きたくないけど)
 ・関係ある代理人との打ち合わせ
 ・取引先の拡大
 ・特定の国の代理人を探す
 ・単に海外旅行

3.誰が参加している
 アジア諸国の知財関係者(弁理士、弁護士)が参加しています。欧州、北米、南米、アフリカ諸国の弁理士もobserverとして参加しています。参加者の大部分は弁理士です。弁護士の参加が多い国もあります。
 なお、日本では弁理士と弁護士は別ライセンスですが、アメリカのように弁護士とPatent Agentのライセンス制度の国があります。イギリス式のBarrister, Solicitor式の国もあります。最近は聞きませんが、無試験で弁理士資格が得られる国もありました。

4.参加手順
・日本部会に入会
 まず、日本部会の会員になります。APAA日本部会の会員はAPAAの本部会員になります。入会承認には1か月程度かかります。
・APAA国際会議に申し込み
 APAAの会員番号が通知された後、APAA国際会議に参加を申し込みます。4~6月頃の申込開始が多いです。
 申し込みをREGISTRATIONといいます。REGISTRATIONは違うフェーズで、違う意味で使われるので注意しましょう。  EXCURSIONを選びます。
 ポロシャツorウィンドブレーカが配布される回が多いのでサイズを選択します。服のサイズは国によって違うので、日本人の標準服であるユニクロのサイトと比べましょう。
 参加費用(2000~2500USD)は本人名義のクレジットカード決済又は海外送金です。
 名札に記載する名前、肩書き、事務所名を入力します。
 事務所にAPAA会員がいても、有資格者は同伴者(AOP)で参加できません。
・EARLY BIRD
 早期申込割引があります。EARLY BIRDは7~8月に締め切られます。
・会議の申し込みの他、航空券とホテルを予約しましょう。
・オブザーバーの受付開始前に申し込むと、EXCURSIONの選択の幅が広いです。

5.日程
・日程は、理事会(Council Meeting)だと4日、総会(General Assembly)だと5日の場合が多いです。これによってWELCOME RECEPTIONの日が異なります。特別の事情がなければ、WELCOME RECEPTIONの日の夕方から参加すれば十分です。
 以下4日の場合のプログラムの例を紹介します。
DAY1
0900-1800 REGISTRATION
1700-1800 RECEPTION FOR FIRST TIME PARTICIPANTS
1800-1900 OPENING CEREMONY
1900-2200 WELCOME RECEPTION
2200-2400 HOSPITALITY SUITE (APAA BAND)

DAY2
0900-1800 REGISTRATION
1030-1100 TEA BRAKE
1230-1400 LUNCH
1530-1600 TEA BRAKE
1900-2200 CULTUAL NIGHT
2200-2400 HOSPITALITY SUITE (APAA BAND)

DAY3
0700-1600 EXCURSION

DAY4
0900-1800 REGISTRATION
1030-1100 TEA BRAKE
1230-1400 LUNCH
1530-1600 TEA BRAKE
1830-2330 GALA DINNER

・REGISTRATION:会議の受け付けで、申込時に取得したQRコードを見せて、名札とキットを受け取る。キットには、鞄(ビジネスバッグやトートバグ)、筆記具(ボールペンやノート)、現地スナック、傘、水筒、ロゴ入り衣類(ポロシャツやウィンドブレーカ)などが入っています。
・RECEPTION FOR FIRST TIME PARTICIPANTS:初参加の人への注意事項の説明
・OPENING CEREMONY:偉い人のお話や、開催国の文化紹介
・WELCOME RECEPTION:最初のパーティー、基本的に立食
・HOSPITALITY SUITE:二次会、APAA BANDが演奏し、参加者が踊る、クラブのようなもの
・TEA BRAKE:コーヒーやお茶が用意される。簡単なお菓子が用意されるときもある
・LUNCH:基本は洋食ビュッフェだが、開催国のlocal cuisineが混ざる、昼はアルコールはない
・CULTUAL NIGHT:開催国の文化にちなんだ出し物(踊り、音楽)が行われる立食パーティ、博物館や植物園で開催されることもある
・EXCURSION:1日or半日の観光
・GALA DINNER:最後のパーティーで着席スタイル、洋食フルコースが多いが、開催国のlocal cuisineが混ざることが多い、後半はクラブになる

6.EXCURSIONの選び方
 楽しそうなものや、個人旅行では行き難いものを選ぶとよいでしょう。空きがあればEXCURSIONは変更できます。EXCURSIONをキャンセルして、ホテルの部屋で仕事なんて話も聞きます。

7.航空券
 今は多くのOTAサイトや航空会社直販があるので、ネットで買えます。
 会議参加時の航空便はばらけるのですが、会議終了後は多くの弁理士が同じ便で帰国するので、早めの購入が適です。なお、日本から200名程度の弁理士が参加し、前方が混みます。
 航空ダイヤは夏ダイヤと冬ダイヤがあり、IATAは3月の最終日曜日から7か月を夏ダイヤ、10月の最終日曜日から5か月を冬ダイヤです。APAAは11月頃の開催なので、冬ダイヤの発表前に航空券を購入すると、細かいスケジュールはズレたり、増便や減便があります。
 前泊もearly checkinもしない、WELCOME RECEPTION開始時刻に会場入りできる直行便を探すとよいです。近隣諸国(韓国、台湾、香港)や航空便数が多いシンガポール、タイは羽田から朝飛んで、WELCOME RECEPTIONに間に合いますが、遠い国、航空便が細い国、乗り継ぎが必要な都市だと前泊か夜行便になります。
 直行便でなく、経由便だと安い航空券が見つかることがあります。
 LCCは欠航や頻繁な時刻変更があり、欠航しても払い戻し以外の補償はない(振替便を当日購入)ので注意が必要です。
 帰国便は、GALA DINNERの翌日の昼頃発の便が最適です。羽田到着後の交通手段(23時羽田着で帰宅できるか?)も重要です。
 promotion codeが配布される場合があるので、OTAサイトと直販+promotion codeで価格を比較しましょう。

8.ホテル
 APAAの申し込み時に予約できる場合と、APAAの申し込みとは別に自分で予約する場合があります。APAAの申し込み時に予約できる場合でも、近隣の廉価なホテルを自分で探すのもよいです。今はOTAサイトで簡単に予約できます。
 会場周辺を探すと安いホテルがありますが、会場直結は高くても選ぶ価値があります。
 安いホテルは(中級ホテルでも)東南アジア安宿あるあるなことが多く、不便も受け入れましょう。
 ホテルで朝食セットにしなくても、近隣でローカルな朝食を食べるのもよいと思います。
 promotion codeが配布される場合があるので、OTAサイトと直販+promotion codeで価格を比較しましょう。

9.ドレスコード
 ドレスコードがあります。開催地によって若干違いますが、男性基準だと概ね下記です。
・WELCOME RECEPTION
 business attire, business casualなので、スーツ+ネクタイ
・CULTUAL NIGHT
 Smart casualですから、ジャケパンのように、きちんとした感が醸し出されればよいのですが、CULTUAL NIGHTは最も振れ幅が大きいです。カジュアルダウンしたポロシャツ、スーツ+ネクタイ、民族衣装の人がいます。
・GALA DINNER
 formalですが、礼服でなく、スーツ+ネクタイで十分です。formalの他にnative costumeやtraditional clothesがドレスコードに含まれることがあります。JPの和服、KRのチマチョゴリ、VNのアオザイ、INのサリー、PHのバロン、スコットランドのキルトなどを見かけます。
・航空便の都合でスーツに着替える時間が無くTシャツで打合せに参加したことがありますが、浮いていました。
・特に日本人と韓国人の男性は、ドレスコードによらず、全日程同じスーツ姿で標準化している印象を受けます。
・国によって政党色が強い色(THの赤や黄)があるので注意が必要です。

10.AFP
 APAA国際会議の参加資格には、会員(member)、AOP(Accompanying Office Person)、AFP(Accompanying Family Person)の3種類があります。
 前述したように、有資格者のAOPは認められていません。技術スタッフのための参加資格といえます。
 帯同する配偶者はAFPになります。AFPにも名札が配られます。DAY 2, 4にはAFPのツアーがあります(会議参加費に含まれる)。AFPの方も単独行動時は名刺交換をするので、同伴会員の名刺を持って行きましょう。AFP同士で仲良くなって、会員同士が繋がりを持つこともあります。

11.その他、知っていると会場で便利なこと
・名札の着用
 会場の随所に係の人が立っていて、名札の着用をチェックしています。会場ではREGISTRATIONで受け取った名札の着用が必要です。名札はストラップ付きホルダに収容され、首から下げます。名札ホルダを準備しない回があったので、事務局からの連絡に注意が必要です。
・着席時のお約束
 パーティーやランチは大概10名程度の丸テーブルの会場です。席に着いたら、既に着席している参加者に挨拶をして、名刺交換するお約束があります。先日、香港の大事務所の(ボス感が半端ない)所長弁理士が最後に着席したのですが、全員に挨拶に回っていました。
・参加者リスト
 開催約1か月前からParticipants Listが配布されます。
 この頃から、営業熱心な在外代理人からmeeting offerが届くようになります。興味がある代理人とmeetingするとよいと思います。
 こちら側からも、取り引きがある代理人を探してmeetingをschedulingするとよいです。
・Gala Dinner Table Booking
 開催1~2週間前にGala Dinner Table Bookingが開始します。知り合いと一緒の場所にするとよいかもしれません。
・Session、Committee
 特許、意匠、商標、不競法などのSessionやCommitteeが開催されます。openなものとclosedなものがあり、申し込みが必要なものと飛び入り可能なものがあります。申し込みが必要なセッションでも、当日立ち見できることがあります。
・昼食
 会議期間中のDAY 2~4は参加者に昼食が提供されますが、DAY 1は一般参加者の昼食が提供されません。会場が人里離れたリゾート地での開催だと、昼食のために車で移動が必要なことがあり、昼抜きという選択も賢明と思います。
・夕食
 会議期間中のDAY 1, 2, 4は夕食が提供されますが、DAY 3(EXCURSIONの日)は夕食が提供されません。仲間で又は一人で町に出て又はホテルで夕飯を食することになります。DAY 3には、国際グループや各国グループの会合があり、機会に恵まれれば参加するとよいと思います。
・meeting point
 会場内にmeeting pointが設定されます。近年は複数のmeeting pointが設定されることが多く、meetingする在外代理人と出会う場所の指定が必要です。
 meeting pointは、出会う場所とmeeting会場の二つの意味で使われることがあり、meeting pointが両方の意味で使われる場合、打合せ用の小テーブルが並んだ部屋の入口にmeeting pointの看板が出ています。また、pickup point、meeting pointが別に設定されることもあり、その場合は、pickup pointは代理人と待ち合わせする場所で、meeting pointは打合せ用の小テーブルが並んだ部屋の意味で使われます。

12.現地事情に鑑み、知っていると便利なこと
・主要ホテルや会場と空港の間の連絡バス
 現着したら空港の到着フロアにAPAA関係者が待っている場合があります。この場合は、会場や近隣のホテルへの送迎バスがあり、便利です。アジア諸国にはタクシー利用の難易度が高い国があります。乗ると嫌な思いをする国は、空港からの移動に注意しましょう。
 当該国でメジャーなライドシェア(Uber, Grabなど)をセットアップして渡航することをお勧めします。
 (会場がどんな辺鄙な場所でも)終了後の会場から空港への移動は自力です。
・主要ホテルと会場間の連絡バス
 主要ホテルと会場間の連絡バスが運行されることがあります。1時間に1本程度で巡回しているケースが多く、便利です。特に、街歩きが不快(危険)な国は連絡バスを積極的に利用する方が良いです。
・通信環境
 会場やホテルにはfree WiFiがありますが、街中で通信手段に窮するので、海外WiFiか現地SIMを準備して行くことをお勧めします。free WiFiが主の方は、VPNもある方がよいです。
・ビザ申請、入国申請
 最強パスポートを持つ日本人はビほとんどビザ不要です。ビザ申請用に会議のinvitationを発行してくれます。  近年は多くの国でデジタル入国申請が必要です。
 ABTCを取得すると便利ですが、自動化ゲート利用可能空港はイミグレがそれほど混まないので、以前ほど価値がないと思います。
・最近は都市鉄道(MRT)に乗車できる交通系ICカード(TWの悠遊カード、SGのEZ-Linkカードなど)がキットで配布される場合があります。
 クレカのタッチ乗車ができる国も増えました。
・治安、衛生状態
 日本とは治安や衛生状態が異なります。
 銃規制が緩い国や、街中で日本人襲撃事件が頻発する国もありますが、女性が夜間に一人歩きしても安全な国もあります。どの国でも、ひったくりには注意しましょう。街中でAPAAの名札の着用は避けた方がよいかもしれません。
 水道水が飲める国は極めて少数です。氷に注意が必要な国もあります。
・宗教
 (よほど親しくならない限り)参加者で宗教の話をすることはありませんが、日本にいると感じない、宗教の多様性を感じます。肉の種類は明示されていますし、ハラル対応やベジタリアン対応もしています。街には仏教寺院、キリスト教会、イスラムモスク、ヒンドゥー寺院が隣接していることもあります。

13.代理人との付き合い方のtips
・当該国の代理人によるreceptionが開催されることがあります。invitationが届いたら参加するのもよいかもしれません(ガッツリ営業される可能性あり)。
・発明創成国とincomingが多い国の違い  発明創成国(日韓台)や外国からの出願が過半数の国で代理人の考え方や行動が違います。また、きちんとした実体審査が可能か修正実体審査が主かによっても、代理人の考え方や行動が違います。特許中心の代理人でも特許明細書のdraftingができない人(困難な国)もいます。得られた各国事情は今後の外国実務に役立ちます。
・開催国の代理人事務所訪問
 機会があれば、開催国の特許事務所や法律事務所への訪問をお勧めします。会って話をすること、訪れて事務所の雰囲気を感じることは重要です。
・WhatsApp、LINE
 お友達になりたければ、WhatsAppやLINEを交換してもよいかもしれません(以後、電話がかかってくることもあります)。メッセージアプリは、日本(TW、TH)ではLINEですが、世界的にはWhatsAppです。こんなところにもガラパゴス化を感じます。WhatsAppは脆弱性や詐欺メッセージが報告されており、世界標準なりの注意が必要です。
・ビジネス無しでもお友達でいられる?
 基本的に参加者は仕事を求めて参加しているのですから、出会って数年間仕事のやりとりがないとコネクションが切れる人がほとんどです。この点が国際会議の難しいところで、仕事がなくても長期間友達でいられるケースはレアでしょう。というのは男子の事情で、女子はちょっと違っているようで、困ったときに助け合おうねという期間が長く続くようです。
・世界には、能力が高い弁理士が沢山います。多くの人が留学を経験しており、英語が堪能で、複数言語を解する人も多いです。そういう人たちと協力をして依頼人のために行動する観点では、国際会議は大きな刺激と知見が得られます。
 また、各国の国情や国民性が分かり、現地代理人への付き合い方が変わると思います(雑駁に言うと、ダメ代理人と付き合う方法が分かる)。